第六夜 凶戦士 (後編)

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 倒れ伏したジンの姿を視認してから一呼吸の時間も置かずに、凶戦士レオンは黄金の剣を振るった。一瞬とはいえ、ジンの姿に動揺して目を奪われたレンは一撃を受け流す事が出来ずに、大きく後方に吹き飛んだ。  身体の正面で直撃は免れたものの、重量が軽い小人の体躯は、大剣の重さが無ければ何処までも飛距離を伸ばす野球のボールのようなものだ。  部屋の壁にしたたかに背中を打ち付けてレンは呻いた。 「レン!!」  モーリスの声。  リングブレードを構えながら凶戦士に向き合う。その背後ではベッドの人間・漆原めぐみ氏が放つ鮮やかな夢の光がゆっくりと形を成しつつあった。一般人とは少し毛並みの違う夢の光は強く、見る間に大きく夢珠は成長していく。  灰色の髪に汗を滲ませながら凶戦士は笑う。勝利を確信した笑みなのか、闘いに興じた故の歓喜なのか。  モーリスはその笑みに背中を冷たくして後ずさる。背後への攻撃を成功させたとはいえ、不意打ちでしかなく、レンを片腕で吹き飛ばした凶戦士と正面でやり合えるほどの自信過剰は持ち合わせていない。  灰髪のレオンは金色の長剣を再び床に突き立てる。身に纏う鎧が節々に赤く光りを放ち、その身から分離する。  全身鎧は戦士の前で合わさるとまたヒト形を成し、離れて転がっていた損壊した頭部が、逆再生を見るかのように床を転がり、跳ね、カシャリと首元に収まった。  頭部の半分はヒビ割れ崩れ落ち、開いた穴から、がらんどうを覗かせている。それでも尚、赤銅鎧は息を吹き返した一つの強敵として黒光りする稲妻の如き凶剣を用いてモーリスに襲いかかった。
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