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「わかった。どこだ?」
「がっこーの駅の東口にある『暖炉』ってところだよ、早くきてねー、よしや」
自分の要件だけ告げると、俺の返事も聞かないままに珠緒は通話を終わらせてしまった。
迎えに行く準備を始めようと席を立ち、身嗜みを整える。
「あと20分で入れるってー」
風呂掃除が終わったらしい彼女が浴室から戻ってくる。珠緒からの電話ですっかり彼女の存在を忘れてしまっていた。、
友人は出かける用意をしている俺を見て驚きに目を見開いていた。
「善也?!」
「悪い、珠緒から連絡が来た」
別に彼女に限ったことではなく、何かあった時に珠緒から求められるならばそちらを優先する。
それは珠緒も同じ。
俺にとっては当たり前のことだった。
「また珠緒クン……?」
「そうだが?」
声音から彼女の機嫌が急降下したのがわかる。
普通なら機嫌をとって宥め賺すが、それは俺にとって優先すべき事項ではない。
珠緒が呼んでいるのならそこに赴く。それが俺の優先全てき事項だ。
そんな俺の様子が伝わったのか、彼女は乱雑に置かれていた自分の荷物を掴むと急ぎ足で玄関へと向かった。
「これ、忘れ物」
ヘアゴムが一つ落ちていたので拾って差し出すと、引っ手繰るようにして取られた。
どうやら機嫌は最悪らしい。
「このホモ野郎!」
平手こそ食らわなかったが、それに近い衝撃を受けてしまう。
言葉の暴力とはよく言ったものだ。
自分が他者よりも低い位置にいたことが気に入らないらしい。他者と言うか男よりも下にいたことに。
例え珠緒が女だったとしても、多分俺はそいつを珠緒と同等に扱う。
男だからとか女だからとかの次元ではないのだ。
俺と珠緒。
他者には理解できない、理解されようとは思わない俺たちの関係。
理解されようとも思わないから、どうか俺たちを二つに分けないでほしい。
俺と珠緒は同じ存在なのだから……。
それだけが俺の望み。
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