186人が本棚に入れています
本棚に追加
【SIDE Y】
こんな大勢の目の前で大胆にもキスを仕掛けてきた珠緒は、今俺の腕の中ですやすやと寝息を立てている。
可愛い奴だ。一丁前に嫉妬して独占欲を剥き出しにしたようだ。
周りは一連の俺たちの行動を見て言葉を無くしているようで、まだ静かなままだ。
俺が蹴り飛ばした男はまだ意識が戻らないらしいし、俺にキスを仕掛けた女は泣いている。
珠緒が慕って いる留年していた先輩とやらは、開いた口がふさがらないらしい。
さて、どうしたものか。
「あー……就職おめでとうございます。珠緒酔ってるんで連れて帰ります」
「お、おう……」
「その人にも目覚めたら謝っといてください。それじゃ」
この場所の中心人物である珠緒の先輩に声をかけ、珠緒の荷物を拾い上げ居酒屋を後にする。
手の中の温もりと重みが心地よい。
やはり俺に色や感情を与えられるのは珠緒しかいないと痛感する。
寝ている珠緒の顔に何度も触れるだけのキスを落とす。
それがくすぐったいのか、俺の腕の中で頻りに身を捩っている。
「珠緒俺はやっとわかったよ。早く目覚ませ」
俺から珠緒を奪うような奴はいなくなればいい。
珠緒から俺を奪うような奴もいなくなればいい。
俺と珠緒二人だけになるためにどうすればいいか。
よく考えたら簡単だ。
産まれる前と同じように一つになれば良いのだから。
最初のコメントを投稿しよう!