ある彼の一日

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その二人は入学してきた時から有名だった。 一人は男の俺でも見惚れてしまうような端正な顔の持ち主で、やはりそれを女は放ってはおかなかった。 入学後も奴が近くを通れば騒ぐし、食堂に顔を出すと情報が入ればいつもは弁当派の女もその日は食堂で食べることに変更するほどだ。 でもその男はそんな周りの環境にもなれているようで、別に対して驚きも喜びもしていなかった。 でもそんな男が感情を表に出すとき。 それはもう一人の有名人が男のそばにいる時だけだった。 もう一人の男は端正な男とは違い、顔も普通だし性格も普通で俺としては親近感が湧く存在だった。 端正な男は完璧すぎてどこか近寄りがたい雰囲気を醸し出すのに対し、その連れはその逆だった。 どちらかというと普通の男は端正な男によって有名にさせられていると言う感じだった。 普通の男自身に何か他を引き付ける何かはないのだ。 知り合いの後輩が飲み会に連れてきた時に少し話したが、居たって普通のどこにでもいるような大学生だった。 彼と彼らの感覚は俺とその他とかけ離れており、後輩が彼におかしいと言っても彼はそれの意味が分からないようであった。 最初はそれくらいの接点。 それが大学を卒業する頃には一番気にかけている後輩なろうとは、あの時の俺は予想もしなかった事だろう。 まあ俺が浪人して同学年になったのが一番仲を縮めるきっかけだったとは思うが。 そんな二人が周りからおかしいと言われても、二人でいることを選んだのは俺の就職先が決まったころだったと思う。 近くでそれを見てきた俺からすれば、落ち着くところに落ち着いたといった表現が一番しっくりくる。 そこ以外の位置では違和感を覚える。 彼には奴の隣が。 奴には彼の隣が。 それが生まれた時からの二人の定位置なのだろう。 大学卒業後どのような進路を歩んだかはわからない。 自分の事が忙しく、俺自身が周りを見れなかったせいもある。 それに加え彼が余り周りと関係を持たなくなったせいでもあると思える。 そんな大学時代の後輩兼友人兼同級生の彼……珠緒と偶然駅であったのは俺が就職して3年後の事だった。
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