ある彼の一日

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「久しぶりですね先輩。お元気でしたか?」 営業回り中に偶然後ろから『先輩?』と懐かしい声で声をかけられた。 声を掛けてきた珠緒はあの頃と変わらず、1人だけ3年分の年月を過ごしているように感じるほどだった。 辺りを見回したがどうやら奴はいないらしい。 「善也の事ですか?あいつならいませんよ」 「あー、悪い。つい癖で……」 あのプリンスの嫉妬深さを思い出した俺を目にした珠緒が笑う。 その笑顔に息を飲んでしまった俺が居た。 別に珠緒はあの頃と変化はない。 むしろ3年の歳月など感じさせないくらい未だ若く見える。 でもなぜか珠緒が醸し出す雰囲気が、あの頃の珠緒と違う人間なのだと俺に理解させたのだった。 多分こんな風に珠緒を変えたのはあのプリンスだ。 あの頃の珠緒は自分とプリンスの関係に名前を付けられずに、普通になろうとしていた。 所が今の珠緒はありのままを受け入れ、そして自分で選んだ所為か妙にすっきりとした顔をしている。 『少し話しませんか?』そう珠緒が声をかけてきたのと、営業回りがうまくいかなかった事が重なって俺はその提案に2つ返事で飛び乗った。 近くにあった喫茶店に入ると、俺たちは互いにアイスコーヒーを注文して喉を潤した。 「俺の顔何かついてますか?」 「え?あーいや、何か変わったかな?って思ってた……」 「んー、善也の贔屓目で見ると色気が只漏れらしいです。おかしいでしょう?」 あながちプリンスの言うことは間違っていないんじゃないかと思う。 彼に愛され、彼を愛している珠緒は中も外も満たされているのだろう。 「……珠緒は今幸せか?」 「はい。善也がいますから」 俺の問いに間髪入れずに回答する珠緒の顔に迷いはない。 あの時も思ったが幸せで何よりだと思う。 「そういえば、珠緒は今何やってるんだ?」 「俺ですか?俺は……自営業やってます」 「自営業?じゃあ社長さんってわけか……。凄いな。俺なんてまだまた下っ端の営業回りだぜ」 「そんな大層なものじゃないですよ……自由気ままに輸入雑貨の販売代行みたいなことやってます」 あの頃自分の就職先は決まっていたが、珠緒の就職は決まっていなかったはずだ。 とりあえず今働いていると言う事なので一安心だ。
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