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年上の俺の威厳でコーヒー代は俺が払い、『じゃあ次は俺が払います』と珠緒は言う。
言うけど多分俺は次など無いと思っている。
俺の携帯には珠緒の連絡先が登録されてはいたが、卒業後使うことはなかった。
俺もあの頃から番号を変えたわけではなかったので珠緒が連絡を取る気なら連絡が取れる。
でも今までなかったのだから多分これからもないのだ。
今日が偶々そして唯一の日だったのだ。
これが他人と極力関わらずに、狭い世界で生きていくと言う事を決めた俺の後輩の人生なのだ。
それを選択したのは目の前にいる俺の自慢の後輩だ。
俺にはできない。
自分にできないことろやり遂げるからこそすごいと思える。
出会った当初珠緒事態に有名人になる要素は感じられず、親近感を覚えたりしたが今ではそれは俺の勘違いだったようだ。
俺は珠緒のようにはなれない。
親近感どころか恐らく真逆の位置にいるのだろう。
「頑張れよ!珠緒」
「はい、先輩も」
俺と珠緒が大学で出会ったのも偶然。
そして仲良くなったのも偶然。
今日出会ったのもまた偶然。
偶然が続いていけばいつかはまた昔みたいに会えるのかもしれない。
駅とは逆方向に歩いていく珠緒の背を見送り、俺も仕事を再開させるかと頬を叩き喝を入れたのだった。
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