後日①

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善也にも俺が善也のものだと言う事に誇りを持ってほしい。 そのためにはやはり善也を支えられる人間でありたいと思うのだった。 「珠緒」 暫く善也に見惚れていると、不意にパソコンの前から呼ばれた。 見ているのがばれたのかな?と思いつつもベッドから降りる。 近づくと善也はパソコンを指差していた。どうやら見てみろと言う事らしい。 見てみるとそれは善也が書いているコラムが掲載されている雑誌の編集さんからのメールだった。 「少し話が出ていて、俺はコラムの他に翻訳の仕事も請け負おうと思う。で、だ。実は俺の担当の姉がイギリスに住んでいるらしく、翻訳も彼女からの依頼らしい。その伝手を使って珠緒も始めて見たらいい」 「……何を?」 「販売を」 俺に伝えたいことを俺が理解していない事を悟ったらしい善也は、腰に腕を回し抱き寄せる。 必然的に善也の膝の上に乗る形になり、大人二人の体重を乗せたパソコン用の椅子が軋んだ。 「素人が服の販売なんかをやっても失敗するのが目に見えてる。たくさんの人間がやっているから競争も激しい。だから珠緒はこの担当の伝手で彼女から家具や雑貨を輸入したらいい。最初は彼女の目利きで。あちらに住んでいる日本人だ、日本人の好みもわかるだろう。日本での雑貨関連のマーケットは右肩上がりだ。失敗する要素が少ないだろう。そして珠緒が少しずつ成長してきたら自分で仕入れに行ってもいい。ただし俺とだ」 「善也……」 「在庫を置いておくテナントは借りるが、そこで珠緒が売ることはない。将来的にもしそうなったとしても、お前は表に出ることは禁止だ。それでもいいなら好きにしてみたらいい。俺も何か目標がある方が仕事にやりがいが出る」 それだけ言って軽いキスを落とすと善也はキッチンへ行ってしまった。 一人パソコンの前に残された俺は、自分のこれからを想像する。 善也は目標があった方が自分の為になると言っていた。 多分それは俺のこの思い付きの仕事が失敗した時に、今と同じもしくは今以上の水準の生活を送るためにだろう。 結局俺は善也に頼りきりだ。 でも多分それが一緒に生きると言う事なのだ。 人に頼って頼られる。 そういう関係をこの先もずっと善也と続けていきたい。 その為の第一歩を俺はスタートさせることをこの時決意したのだった。
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