後日①

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広くなりすぎて手を伸ばしても届かなくなるような部屋は寂しすぎる。 善也とこういう関係になる前はどちらかというと、善也の方が俺に依存していたのだと思う。 でもここ最近はそのバランスが逆になっていると自分では思っている。 まるで母親を見失った子供の様に、善也が居なくなってしまうと俺は心が痛くなってしまうのだ。 呼び声に返事がないことに少しへこみながら、ベッド下に落とされた部屋着を着込み俺専用の机の引き出しを開ける。 そこには善也には内緒で作成しているデザイン画が隠されている。 そのデザインを少しずつ進めていくのが、俺の善也のいない時に寂しさを紛らわせるために行っている事だった。 今作っているのは定番だけど指輪だ。 あちらに滞在していた間に見つけたオーダーメイドの指輪を作ってくれる店。 別に名の知れたブランドとかではなく、個人の趣味の延長を叶えるような店だった。 それでもやはり世界に一つだけという言葉に惹かれてしまいこうやってデザインを起こしている最中である。 ペアというよりは二つで一つのようなデザインにしたい。 俺たちだけの指輪。 出来れば先輩が教えてくれたあの鳥もデザインに組み込みたいと思うけれど、俺にそれが出来るだろうか。 善也に頼めば多分あいつはそつなくこなすのだろうけど……。 あいつはなんだかんだ言って器用なのだ。 この指輪が完成したら次は家具を。 家具を作ってくれる場所があるか今は分からないけれど、ずっとこの場所に居れないことは分かっている。 だから自分たちの為に自分たちが作った物に囲まれていれば、例え手の届かない場所にいたとしてもあまり悲しくはならないと思うんだ。 俺の想像する未来は明るい。 それはその隣に必ず善也が居ると断言できるからだ。 盲目になっているかもしれないけれど、善也が隣にいるのならば多分どこでも住めば都になってしまうのだろう。 前回よりも少し進んだデザイン画に溜飲を落としていると、施錠が解かれた音が聞こえた。 手の届く範囲の部屋の広さと言う事は、玄関からこの部屋の距離も遠くはないと言う事。 つまりこのデザイン画を早急に隠さなければいけない。 慌てて引き出しを広げ、ノートの下にデザイン画を隠して平静を装う。 二秒後には予想通り買い物に出ていた善也が顔を覗かせた。
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