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「起きたのか……」
「うん、オハヨー」
悟られぬように平然を装った。
善也は俺の頭を抱き寄せて一度唇にキスをすると、買い物袋を持ったままキッチンへと向かった。
以前は俺が作って善也に食べさせていたというのに、俺が寝込んでいる時に善也が料理をしてからは、俺が料理を作るよりも善也に任せた方がおいしいものが出来る事が判明した。
善也が締切で忙しい時には俺が作ったりもするが、我が家の料理長は善也に変更されたのである。
そう考えると本当に俺って何もしていないと思う……。
「俺が作ろうか?」
「……いやいい。明日から一本仕事が入っているから明日からは珠緒に任せることになるからな。それに……車麩を使った料理なんて珠緒が作れると思わない」
仕事の傍らレシピのサイトを見るのが善也の日課らしく男子ごはんというには程遠いクオリティの料理が出される我が家だ。
カロリーや糖質を良く考えたレシピだったり、今日の様に食材を言われても何なのかすら分からないものを料理にしてくる。
ちなみに俺の料理は醤油、砂糖、酒で煮詰めるものばかりだ。
それでも善也はおいしそうに食べてくれる。
俺は善也が作った料理の方が好きだけれど、善也は俺の作った料理の方が好きらしい。
うん、多分いわゆるバカップルなんだ俺たち。
知ってはいたけれど。
「なら俺はそろそろパンツでも穿いてテーブルを出そうかな~」
「是非そうしてくれ。それ以上その格好でウロウロされたら俺も料理どころじゃなくなるんでね」
我が家の家は狭い。
食事のときは俺と善也の机の間にあるソファの前に小さなちゃぶ台を出してそこで料理を食べる。
「了解でーす」
恐らくベッドの周りにパンツも落ちているに違いないと推理しながら、狭いが幸せな空間を横断した俺だった。
外は快晴。
温かいご飯。
雨風を凌げる住居。
手を伸ばせば届く各種リモコンに、携帯に財布にキーケース。
そして隣には愛しい愛しい恋人が。
例えこの選択が世間一般的におかしい、間違った選択なんだとしても。
今日も俺は幸せである。
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