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「えっ?」
「あっ!」
出会いはまるで漫画や小説みたいに。
私が欲しかった本と彼が欲しかった本が重なって同時に手を伸ばしたのだ。
それは別にベストセラーの本でも、新刊でもない。
その作家が好きだったのだが買うのを忘れていた。
だからその書店では最後の1冊。
「あ、す、すみません。どうぞどうぞ」
「いえ、こちらもスミマセン。貴方が手に取ってください」
「えっ、よろしいんですか?」
「きっとこの本も貴方に買われた方が嬉しいと思いますよ。僕は別の本を探します」
「じゃ、じゃあ、御礼にこの後お茶でもどうですか?」
思えば思い切ったことをしたと思っている。
初対面の人をお茶に誘うなど……。いつもの私からすれば考えられない行動だった。
でもなぜだかもっと彼と一緒に居たいと思ったのだ。
このままここで離れるのは惜しい。
彼もびっくりしたようで目を見開いて止まっている。
「あ、なんか急にすみません。ご迷惑ですよね忘れてください、それじゃあ……」
「待って」
恥ずかしくて恥ずかしくて、すぐに立ち去りたい気持ちでいっぱいになって彼の前から去ろうとした私の腕を彼は掴み私を止める。
彼に触れられた腕が熱い。
この熱でどうにかなってしまいそうなくらいに。
「こんな僕で良ければ喜んで、もしかしてその作家好きなのかな?」
「はい……」
私の答えににっこり微笑むと彼は私の腕を引いて別の棚の前へ連れて行く。
「じゃあこれは読んだ?『孤高の城』」
彼が挙げた作品は私が今持っている作家の本ではない。
どうやら新人の本らしくあまり書店でも大きく取り扱われていなかった。
「いえ……」
「これ、実は彼の別ネームでの小説だよ。読んでみるときっとファンならわかるかもしれない」
「えっ!そうなんですか!これも買います!ありがとうございます!」
その後場所を移し彼と話を盛り上げた。
主に作家の話を中心に。
別れ際また会うことを約束してその日は別れたのだった。
そんな私たちが互いに惹かれあい、お付き合いをして結婚に至り子供を授かったのは自然の流れだった。
愛する彼と一緒になれるのは嬉しかったし、彼の子供を身籠った時は嬉しさで涙があふれた。
だが同時に不安でもあった。
初めての妊娠、初めての出産。
それでも彼が傍にいてくれるとその不安はなくなっていくのだ。
愛と言うのは不思議である。
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