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入院当初から意気投合していた私たちは同日に子供を出産したこともあって、更に仲は良くなった。
それはそれは退院の日を惜しむほどに……。
ところが彼女の家と私の新居は歩けば10分くらいの距離にあることが分かり、退院してからも会おうと約束をして私は彼と自分の家に戻ったのだ。
歩いて10分の距離と言うのは散歩にはちょうど良くて、家に帰ってからも週に一度は彼女の元を訪れた。
しまいには彼が仕事を終えると彼女の家に寄って私を迎えに来ると言うのが定番になっていた。
同じ日に生まれた私たちの宝物。
私と彼と善也と、彼女と彼女の彼と珠緒くん。
こうして私たち6人は同じ時を過ごしていったのだ。
善也は年を重ねるほど珠緒くんに依存していき、珠緒くんもそれを受け入れていた。
二人が小さいうちはその光景も微笑ましいものだった。
そんな時私は気づいたのだ。
自分の息子の本当の気持ちに。
「善也は珠緒くんが大好きね」
「俺たまおが大好き。たまおとずっと一緒に居たい」
善也は手のかからない子供だった。
好き嫌いもしない、私たちの言いつけも守る。
でも今思えばそれは私たちと食べる事に興味が無かったからだったのだと思う。
唯一駄々をこねる時と言うのは珠緒くんと離れる時のみ。
食事に自分の希望を言うのも、珠緒くんが一緒に居る時だけ。
小学生になり、中学生になり、恐らく善也の抱える感情は友愛でないことを私は悟っていた。
だって善也が珠緒くんを見る視線は、私が彼を見る視線と一緒だったから……。
一瞬母親らしく未来やら性別やらを突き付けて、善也を本来の道に戻そうかと思った。
でも私にそれをする権利はあるだろうか?
むしろこれから敵や壁しかいない彼の人生の味方であるべきではないのだろうか。
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