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「よかったらこれいかがかな?」
そう言って依頼者が俺に見せたのは映画の試写会のチケットだった。
いくら普段人と接触しないからとはいえ、納品時には俺も立ち会う事にしている。
購入者と一点一点商品を確認して、初期のキズの有無や、色合いのチェックをする。
そうする事で後から起こりうるトラブルを少しでも減らすことが出来ると俺は思っている。
この立会いに善也も一緒に着いてくることもあるが、どうやら翻訳の締め切りが近いらしく昨日から仕事漬けである為今日は一人だった。
とりあえず家を出る時に声をかけてきたが、果たしていつ眠っているのか不思議である。
朝起きるとシーツが少し暖かくなっているので、恐らく寝てはいると思うのだが……。
当然のことながら寝るのは俺の方が早くて、起きるのは善也の方が早い。
「いいんですか?」
「うん。本当は妻を連れて行こうかと思ったんだけど、どうやら妻はこのシリーズは好きじゃないみたいで……」
「あー、どちらかと言うとこれ男性向けですもんね。でも、本当によろしいんですか?」
「こちらとしても行ってもらえると嬉しいな。それに何かとオープン準備もあるから忙しくてね」
「それじゃ、お言葉に甘えて……」
今日の客は自宅の一部を改装して、来月から小さなサンドイッチ専門店を経営予定の人だった。
リビングを改造しての店舗となる為、数多くテーブルは置けないがそのテーブルをこだわりたいので是非にと依頼を受けた。
どうやら店主は俺が依頼を受けた美容室の棚を偉く気にっていて、譲ってもらおうと声を掛けたら俺を紹介されたらしい。
そんな店主から貰った映画の試写会は、10年ぶりに続編が作成された未来から来たロボットを中心に繰り広げられるバトルアクションの物だった。
俺たちが小さいころに立て続けに3作作成し、その3作は全て大ヒットを記録した。
当然俺と善也も小さなころから見ていて、続編制作が決定されると知ってつい先日も雑誌を見ながら『見に行きたいね』と話していたのだった。
「友人と行かせて頂きます」
「次回の納入時に感想でも聞かせてよ」
「了解です」
試写会は今週末にあるらしく、それまでには善也の仕事も区切りをつけるだろう。
息抜きも兼ねて善也を誘うと決意し、俺は店を後にしたのだった。
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