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「ただいまー」
朝起きたら『おはよう』食べる前には『いただきます』食べ終わったら『ごちそうさま』眠る時には『おやすみなさい』。
二人しかいない小さな世界だけれども、挨拶は欠かすことはない。
いつもなら善也の返事が聞こえてくるのだが、今日は聞こえない。
「あれ?善也ー?よしやー?」
「こっちだ」
そう言って声が聞こえてきたのは浴室だった。
どうやらシャワーを浴びていたようで、少し待つと髪から水滴を滴らせた善也がリビングにやってきた。
ジャージの下だけを穿いた状態で上には何も身に着けていない。
引き籠りのインドア派であるにもかかわらず、その腹筋は見事に割れている。
眠る前などに筋トレをしているからだと思うが、同じように俺がやってもきっとそうはならない。
目の前の人物は自分の所有物だと思うが、やはり恵まれた人間だと思う。
「ただいま」
「おかえり。どうだった?」
「何事もないよ。あ、これ貰ったの」
そう言って試写会のチケットを善也に渡す。
いつもなら俺が人から何か受け取るとあまり良い顔をしないが、やはりこれは善也も嬉しかったようで少し目元を下げて笑っている。
「今週末だけどそれまでに仕事終わらせてよね。じゃないと俺一人で行くよ」
「当然だろ。終わる見込みが無ければ休憩も入れない」
俺を一人で行かせることなど無いと思っているからこそ、俺は善也を焚き付ける。
善也は乱暴に頭を拭うと、冷蔵庫からビールを取出し口に付けた。
「なら朝からどこかで昼でも食べて、買い物して夕方のこれに参加しようよ。どうする?CMとかで使われる様なインタビュー受けちゃうかもね」
「俺が珠緒が映ることを許可すると思うか?」
「思わない」
「だったらインタビューを受ける事もないだろう」
話は終わりだと善也は再びパソコンの前に座り画面とにらみ合いをする。
あのようなCMのインタビューがどのような基準で選ばれるのかは定かではないが、顔の良い善也の事だ。メディア関係者の視線は集める事だろう。
「テレビに出たら母さんとかに自慢できるのにさ~」
「誰が見るかもわからないCMだ。駄目だ」
「はいはい……」
テレビデビュー出来ないのは少し残念ではあったが、善也と一日外に出かけるのは久々なので俺のテンションは否応なしに上がっていくのだった。
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