第1章

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【SIDE Y】 「ねぇ善也~お風呂はいろーよ」 ソファで読書中の俺の腕の中で寛いでいた友人が甘えだした。 俺自身が他人に頼ると言う感覚がない所為か、そういう対象者は甘え上手が多い。 一匹狼風な女といるのは楽だが、自分と一緒にいるようで気分は盛り上がらなかった。 「今読書中」 「えー!つまんない!お風呂洗うの私やるし、良い香りの入浴剤持ってきたから沸いたら入ろうよ?」 「はいはい」 ここで無理やりにでも風呂に連れて行くような自分本位の女は好きじゃない。 甘えられて、俺のことも考え、料理もできる。 それが俺の条件。 俺は友人だと思っているが、相手がどう思っているかは定かではない。 友人がバスルームに消えると、ワンルームの部屋は途端に静かになる。 この部屋は俺一人だけでいるととても静かだ。 ちょうど物語の世界に頭が慣れて来た頃、テーブルの上に置いてあった携帯が鳴り出した。 栞を挟み画面を見るとそこには『珠緒』と 記されていた。 「電話?珍しいな……」 大抵いつも珠緒はメールで用を済ます。 電話の時は急いでいる時か、メールを打つのが面倒くさいとき。 今回はおそらく後者だろう。 「はい」 「もしもーし!よしやぁ?よしやですかー?」 聞こえてくる珠緒の声と、ワイワイガヤガヤと周りの騒がしい様子がこちらからでもよく分かる。 このしゃべり方、声のトーンこれは恐らく…… 「珠緒……お前酔ってるな?」 「んーん。どうだろ。わかんないや。俺酔ってるー?」 「あぁ」 「よしやが言うならそうだね。だってよしや超あたま良いもん。俺の自慢だもん」 ケタケタと笑いながら尚も俺を褒め続ける珠緒に、酔っ払いの戯言とは言え悪い気分はしない。 「で、何か用か?まだ寝る時間じゃないだろ?」 「んー、なんかねー、よしや居ないの寂しくなっちゃったの。迎え来てー、お願い」 ね?ね?と耳元から聞こえる珠緒のおねだりに、溜飲は下がる。 通常ならば言わないだろう言葉が酔っていることにより口にできているようだ。
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