樹くんは恩人なのに

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「確かに涼太が友達と遊ぶのはすっげぇ嬉しかった。でもそれは、涼太と離れられてラッキーっていう喜びじゃねぇよ」 「ほんとかよ……」  まだちょっと残る疑念を隠さずに目を向けると、康平は目線を横に流して頬を掻いている。何か言いにくい事でも言うつもりなのか。 「あー……ほら、涼太はうちの学校で俺くらいしか話し相手いねぇだろ? だから涼太に友達が増えて嬉しかったんだよ」 「え……?」 「せっかく友達と遊ぶのに、俺が邪魔する訳にはいかねぇだろ」  なんだよそれ、全部俺の為だったのかよ。そうとも知らずに俺ってば拗ねてばっかで……。  まぁ俺がこの学校でほぼボッチなのは、だいたいこいつのせいなんだけどな。  だけどもういいんだ。だってこの後に康平が続けた「俺だって寂しかったんだ!」の叫びで、そんな事はどうでもよくなったから。 「ったく馬鹿野郎、それならそうとハッキリ言えよ!」 「涼太だって、結局寂しかったんじゃねぇか!」  お互いに怒鳴りあって、どちらからともなく抱き合った。 「ごめんな涼太、よかれと思ってた事でも不安にさせたら意味ねぇよな」 「ううん、俺こそごめん。俺、もっと素直になるから」 「涼太はそのまんまでいいんだぜ、愛してる」 「康平……」  自然な流れで触れるだけのキスをした。唇がそっと離れて康平と視線を絡ませれば、優しげに細められた康平の目の中で、同じように微笑む俺が映っている。  再度始まった口付けは少し長くて、もしかして濃い方のキス? と思っていたら、本当に舌が口の隙間を縫って入り込んできた。 「ン……ぁ」  ああ、久し振りのこの感覚。ゆっくり味わうように動いて、舌を舌で撫でられて、吸われて、また何も出来ないまま翻弄されそうだ。だけど今回は俺からも積極的に深く絡ませていく。  至近距離で合わさった康平の目が驚いたように大きく開いた後、ほのかに笑ったような息遣いが伝わってきて、腰と後頭部を引き寄せられれば、唇だけじゃなくて体ともキスしているような気がしてくる。 「はぁ……ッ」  なんだろう、体の内側から湧き上がってくるこの気持ちは。  キュッと苦しくなって、少し泣きそうになるのに、悲しくなくて、むしろ凄く満たされてて……。ああそうか、これが愛しいって感情なのか。 「康平、好き」 「俺もだぜ涼太」  よかった、康平と仲直りできた。  でも何か忘れている気が……。
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