樹くんは恩人なのに

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 康平は「茶色でも黒でも涼太の好きにすんのが一番だぜ」なんて言ってるけどさ。 「そんな気にすることねぇよ。涼太ならどっちも似合うだろうし! 俺もたまにてっぺんだけ染めるの面倒臭くなるけど、好きだから続けてるわけだしさ」  ああもう、この全部を肯定してくれる感じがまさしく康平だ。  優しくて少し厳しい一面のある樹くんと比べて、康平はひたすら俺に甘い。あ、でもこいつも言うところは言うな。  けれど甘さの度合いが全然違う。康平といる時は甘やかされすぎて駄目な人間にならないように気を付けよう。 「ありがとう康平」  なんかこいつに言われると、本当に黒髪でもいいような気がしてくるから不思議だ。今回は新しく伸びた部分を茶色に染め直すけど、本当に煩わしくなったら黒に戻すのもアリかな。  眼鏡といい髪色といい、何から何まで康平は俺の好きなようにして良いんだと言ってくれる。樹くんと会うのを了承してくれたのも俺の為だし。 「なんかさ、康平って凄いな」  おもむろに康平の手を握った。たまには俺からも愛情表現しねぇとな。 「んぅえっ!?」  まさかこんな街中で俺から手を握られるなんて想像もしてなかったんだろう、康平は面白いくらいに肩をビクつかせて変な声を出した。 「りょ、りょーた!? 手……人いるのに、いいのかよ? つーか、俺の何が凄いって? まぁ俺はいつも凄いけど!」  やっぱこいつ、俺から迫るとめちゃくちゃペース乱れるっぽいな。突然の自画自賛に見せかけてるそれも、実は照れ隠しなんだろ。  いつも俺ばっか振り回されてるから、こんな慌ててる康平を見るのは結構楽しい。だから戸惑って開いたままの手をもっとしっかり握ってやった。 「実はさ、俺ちょっと自信なくしてたんだよね。でも康平のお陰で俺は俺で良いんだなって思えたんだ。だからありがとう」  康平は赤面してうろたえつつも、俺が礼を言うと照れ臭そうに笑って、手を握り返してくれた。  多分俺達はきっと街中で注目を浴びているんだと思うけど、康平だけ見とけば気になんねぇや、康平も俺だけ見てるし。  ん……? あれ……、この匂い……。 「どした涼太?」  ふと鼻腔を掠めた香りにハッとして、ざっと周りを見渡した俺は首を傾げた。  おかしいな……樹くんがいつもつけてる香水の匂いがしたような気がしたんだけど……。 「いや、何でもねぇ」  気のせいか。
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