樹くんは恩人なのに

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「俺、涼太の事が好きすぎて、お前と二人でいるとどうしても触りたくなって……」  おう知ってるよ、それはもう嫌という程知ってるよ。 「でも、それと同じくらいお前のこと大事にしてぇんだよ。だから俺なりに両立できる方法を考えたら、こんな感じに」 「あ?」  ぎろりと低く唸ってみたけど康平は謝るだけだった。俺の腰を抱いて頭を撫でる手は優しさに満ちていて、大切にされてる感じは十分に伝わってくるだけに、これ以上責めることはできない。  ただ一つだけ“中途半端に触らない”と約束させて、しょんぼりする康平を前にやれやれと肩をすくめた。  こいつ、俺の事なんだと思ってんのかね。硝子細工を扱うように大事に大事にしなくても壊れやしねぇっての。 *  数日後、俺は樹くんに呼び出された。大切な話があるからどうしても会いたいと、いつもと少し違う文体で。  なんだろうと思いながら指定の場所まで一人で向かう。  静かな公園だ……トイレがあるくらいだからそこそこ広い公園なんだけど、生い茂った木々がほとんどの範囲を日陰にしてしまっているから妙に薄暗くて、もう夏だというのにやけに涼しい。 「やあ涼太くん」  影にある古いベンチに樹くんはいた。真っ黒な髪を風に乗せる彼に促されるまま隣に腰掛けると、近くの自販機で買ってきたらしいペットボトルのジュースを手渡される。 「わ、ありがとう。いくら? 金返す──」 「いいよ、俺の奢り」  涼やかな笑顔で安定のイケメンぶりを発揮する樹くん。ちょうど喉が渇いてた俺は、親切にキャップまで外されてるスポーツドリンクを一気に半分ほど飲み干したんだけど、ここである違和感に気付く。 「……ん? これってこんな味だっけ?」  小首を傾げてユラユラ揺れる中身を凝視してると、樹くんは思い出したように「最近改良したらしいよ」と教えてくれた。樹くんが言うんだから間違いないだろう。
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