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「ところで大切な話ってなに?」
「うん、それなんだけど……」
その前に、とだけ言った樹くんは俺の目元を指した。長い指は眼鏡のフレームにコツりと当たる。
「眼鏡は外した方がいいよ、眼鏡かけてる君はなんだか挙動不審だし。そうなるくらいなら多少見えなくても裸眼でいるほうがマシだ」
「あ……」
そう、今日はたまたまコンタクトを切らしていた。眼鏡姿の俺を康平やクラスメイトは受け入れてくれたけど、やっぱり他の人から見れば変に思うんだ。
気落ちして眼鏡を外すと視界がぼやけた代わりに、樹くんの「やっぱり涼太くんは眼鏡ないほうがいいね」と優しげな声が届く。
「で、本題なんだけど……涼太くんって付き合ってる人いるのかな?」
「はっ!? な、なんでそんな急に!」
「いやぁ、今更だけど恋人がいるならこんな頻繁に呼び出すのはまずいかなって思ってさぁ」
ああそういう事ね。びっくりしたー。
「別に大丈夫。あいつも公認だし」
「てことはいるんだ?」
「え……うん、まぁ……」
なんだか恥ずかしくて思わず笑って誤魔化してしまう。相手が俺の過去を知ってる樹くんだからかな……引きこもりに恋人ができるって、はたから見たらどんなふうに思うんだろう。
「へぇ、仲良くしてる?」
「まぁ、うん……」
言えない、ついこの間軽く揉めていたとか、体を触ってくるくせに中途半端でやめてくるのが悩みなんて言えない……。
だけどイケメンな樹くんは俺の隠された感情を容易く見破ってみせた。
「なんだか色々と溜まってるみたいだね。上手くいってないんだろ、その人と。セックスはした?」
「セッ……!! な、そ、そんな事っ!」
樹くんの口から恥ずかしげもなくそんな言葉が!!
「慌ててるみたいだけどこれは大切な事だよ。涼太くんの反応を見るに、まだみたいだね」
「ええ……まぁ、その、大事にしたいから、と言いますか……」
樹くんは間違いなく経験豊富だからこんな話題は慣れっこなんだろうけど、俺は童貞だし康平が初めての恋人だから免疫が無いんだよマジで。公開処刑かな。
「大事に……ねぇ、それって言い訳じゃないかな。その人、本当は君と体の関係を持つのが嫌なのかも」
「えっ!? いや、ない! それは絶対ない!」
樹くんから出た言葉が予想外すぎて、つい全力で否定してしまった。だけど樹くんは首を横に振る。
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