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神魔の間。我が領域であるその部屋に立っているのは3人。勇者フュリウスと聖女セレーナ、そして我、魔王ゼフィオムだけである。
「まだ……! 倒れないのか……!」
肩で息をする勇者が我を睨みながら呟く。全くもって気に障る。的外れにも程がある。
我は既に聖剣の一撃を受け、我を成す瘴気は打ち払われた。今立っているのは僅かに残った残滓に過ぎぬ。
「……このような小僧に、我が敗北するとはな」
我の言葉と雰囲気に、ようやく決着を察した勇者が剣を下ろした。
「終わった……のか……?」
そう、噛み締めるように呟く。
我の力の減衰を感じ取ってか、聖女の小娘や、剣士と魔術師の小僧共も起き上がり、喜びや安堵の表情を浮かべている。
嗚呼……全くもって腹立たしい。全くもって……的外れに過ぎる。
「――終わらんよ」
「何っ?!」
「終わらぬと言った。歴史を見よ。我らは何度でも蘇り、その度に世界を混沌に堕とす。現実を見よ。何も……何一つ終わってなどおらぬ」
「……確かに、一時凌ぎかも知れない。500年……もしかしたら100年の後、また世界は魔軍に侵略されるのかもしれない。……それでも! 今の世を生きる人がいる! 彼らを助けられたのなら、無駄なんて事は無い!」
「……ふんっ!」
何かとご高説を垂れている勇者の言葉を聞き流し、見果てぬ先のことを考える。果たして、次の世界では変わるのか。
ご高説が終わったらしい勇者諸君に精一杯の皮肉を込めて、別れの言葉をささげるとしよう。
「我は必ず、蘇る。歴史と混沌は繰り返される。またな勇者よ――この箱庭にて、また会おうぞ……!」
そして我は意識を落とし、この世界での生を終えた。
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