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仕事は順調。
少しずつ、重要な仕事も任されるようになってきた。
恋はお疲れ気味。
というのも、付き合って数ヶ月後に必ず言われる言葉に辟易してきたのが本音。
「俺と仕事どちらが大事?」
そんなの決まってるじゃない。
答えるのも馬鹿らしく思えてくる。
そもそも比較するもんじゃない。
『今日も一杯呑んで帰るかぁ』
仕事あがりの午後九時。
そろそろお腹も悲鳴をあげかけてる。
気心の知れた、いつものBARへ……
向かおうとしたその時
どこからか流れ聞こえてきた音。
「……は…るな………、はるな!『カチッ』」
『えっ?』
頭と心がフル回転する。
走馬灯のように頭の中で映像が流れてゆく。
北海道の紅葉
……
……
長野の雪
……
沖縄の珊瑚
わたしの隣で笑ってるのは…………
「…な、つき?」
振り返れば、記憶と変わらぬ声音で、以前よりも少しだけ目尻に皺を増やして笑う那月。
「どう…し…て……?」
心の声は異なる言葉を叫んでる。
『ーーまったく、嫌になっちゃう。あなたの声音は、いとも簡単に、どこにあるかもわかんない記憶の扉を開けちゃうんだから』
奥深く奥深く
どこか心の片隅に眠り続けていたもの。
その存在すら不確かで
自身では見つけられないもの。
なのに……なのに、声音ひとつで、その場所に辿り着き、扉を開けた。
まるで奇跡のようなこと……でも、私にとっては、これが現実。
この先、また鍵がかけられるのか、それとも、新たな記憶が積み重ねられるのか、時が決めてくれる。
ただ今は再びめぐり逢えたこの時間を楽しもうと思う。
だって……しょうがないじゃない。今までの人生で一番好きだったんだから。
那月との時間が
また流れはじめた。
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