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大通りは北へ向かうと、ゆるやかな登り坂。
港町、繁華街、商業街、そして閑静な住宅街。王宮関係者の住まう地域。
そこを抜けると、街の人の憩いの場でもある広大な広場があり、広場の中心奥に王宮の門がある。
街の家々と同じ白い壁が高くそびえ、重く木造りの門が閉ざされて門番が立つ。
そこへ、蹄の音を響かせながら使者が1人。
広場を行き交う人々の間を抜け、門を叩いた。
サラ=アンジェは薄暗い部屋で本を読んでいた。
王宮の一室。窓辺のあかりで本を読む。
窓からは、遠く街の活気が、風に乗って届く。
前庭では鳥のさえずりと、心地よい風が木々を揺らし初夏の陽射しをやわらげてくれている。
その風が彼女の黒く長い髪を揺らす。
さらさらと、風にさらわれても乱れることのないその髪を、優雅に指先で耳にかけなおす。
薄いシルクのナイトドレスのまま、窓辺のテーブルの上に本を山積みにし、
右足を上に足を組み、右側窓辺の壁に凭れるようにして本のページを爪弾いていく。
時々眉間に皺をよせながら前のページを見返してみたりする。
背後の天蓋付きの大きなベッドには眠った形跡はなく、整えられたままだ。
薔薇の花弁が部屋の各所に散りばめられ、彩りと香りを添えている。
山積みの本はそのほとんどが魔法と薬に関するものだ。
今読んでいるのは古いものなのか、現代に使われている文字ではない。
昨夜から陽が高くなった今まで、もう何時間も彼女は難解な文字と格闘している。
「ふぅ。」
さすがに疲れてきたのか、一息つこうと手を置いたとき、軽くドアをノックする音がした。
「なんですの?」
ドアを振り返る。
なかなか読み解けない文書に苛立ちが募っていたサラは、無意識に不機嫌そうに返事を返した。
よく通る凛とした声は、より一層鋭さを増して聞こえたようで、相手は少しのとまどったような沈黙のあと恐る恐る答える。
「あ…あの、王様がお呼びです…。」
その気弱な返事により更に苛立たされたが、その答えにサラは大きくため息をつき立ちあがった。
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