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立ち上がり、扉のほうへ2、3歩踏みだし
ふと、鏡にうつる姿が目に留まる。
金の額縁は、薔薇と蔦を模したもので、薔薇の花弁部分には赤い石が埋め込まれている。
その額縁に切り取られたその姿は、
腰まである黒髪。夕陽のような輝きを湛えた瞳。すらりと伸びた白い手足に、1枚薄い布地の白いシルクのナイトドレスで、うっすらと身体のラインが透けて見えているという様相である。
さすがに足を止め踵を返し、衣装室へ。
並ぶ衣装の中から着馴れたスタイルの衣装を選び出す。
ナイトドレスを無造作に足元へ脱ぎ捨て、衣装へ袖を通す。
緋色のシンプルなドレスで、胸元は大きく開き、裾には長いスリットが入っている。
彼女の美しいスタイルにぴたりと合ったラインで仕立てられたドレスだ。
よく、はしたないと咎められるのだが、動きやすいので好んでよく着る。
ウエストにアクセントとなる金の飾りのベルトを着け、お気に入りの青い石のブレスレットを手に取った。
ナイトドレスは床にそのままで、部屋を出ていく。
不満を前面に押し出した態度のまま、バンっと自室の扉をあけると、
扉の陰でおびえた様子の男が視界に入る。視界の端でチラとそちらを見たが、声をかけることも、歩調を緩めることもなく、サラはつかつかと廊下の奥へと消えていった。
城の内部の最奥。
王の間へ向かう廊下は、左右は建物内部になっており、昼でも陽が入らない。
薄暗い通路に、灯が燈されてグラスのなかで揺れる火が、左右の壁に描かれた芸術に影を作り出す。
左右の壁には、神話をベースにした絵が、まるで巻物のようにストーリーを追っている。
奥へ向かうほどに物語は終盤へ。神々がこの世界を生んだ物語だ。
その廊下を高いヒールの音を響かせて近付いて行くと、物語の終わりの場所である、王のプライベートエリアの門の傍で、慌てて扉の番をしている者たちが、彫刻の施された大きな両開きの扉を開く。
厚い樫の扉は重厚な音をたてて開く。陽の光が廊下に差し込むと、壁画のところどころに散りばめられた宝石が輝き美しい光景をつくる。
初めて訪れた者は誰もが感嘆の声を上げる。
通いなれたサラは今更立ち止まることはない。
むしろサラがこの扉の前で立ち止まることが嫌いなことを扉番達は知っているので、足音が聞こえると慌てて開くのは日常の風景になっている。
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