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扉を抜けると庭。初夏ならではの青や白といった花々が咲き乱れている。
遠くには庭師達が手入れしている姿もある。
屋根のある渡り廊下は極寒の冬にはいわゆる雨戸に似た形で壁をはめ込み、渡る際の寒さを軽減できるよう作られている。
扉の無い石造りのアーチの入口を抜けると深い赤の絨毯の敷き詰められたホール。
ホール中央には階段もあるが、目的のドアはその階段横。
すたすたとホールを抜け、ノックの返事を待たずそのままのペースで王の居室へ。
王が出迎えるのへ、そのままツカツカと詰め寄ると、サラより背の低い王は見降ろされ気圧された格好でそのまま後ずさり、執務机の向こうの椅子に座った。
サラはその執務机の上に腰をかけ、大げさな振りで足を組む。
スリットから白い太ももがあらわになる。
王はチラリとそれに目をやって顔をしかめた。
王は再三サラにこの服装をやめるように言っている。どうもこの大人の女性という色気を好きになれない。むしろ苦手なのだ。
かわいい娘の教育係でもあるサラだが、こういうところだけは絶対に見習うべきでないと何度も娘に言い聞かせている。
それに比べて彼の妻は素晴らしい。いくつになってもどんな魔法を使っているのかというくらいに出会ったころのまま愛らしい。
王は妻である王妃のことを懐かしく思った。いや、今朝別れたばかりで夕食時にはまた会うのだが…。
「で!?」
サラの放った一言に、現実に引き戻され王はビクッと肩を揺らす。
そして恐る恐るサラの顔を見上げて自らの口髭をなでながら困ったような笑みを見せた。
最近髭にも白髪が混じり始めた。少し丸いお腹も衣装がまた窮屈になった気がする。
そんな王の背後では、昼の陽射しに照らされた深い森が新緑の輝きを見せている。
どこからか微かに楽師たちの奏でる軽やかな音楽が聞こえている。
「な・ん・の・よ・う・で・す・の!?」
王の優しい物腰や人の良い笑顔にもまったくほだされることのないサラは用件を早く言えと、はっきりと一文字ずつ区切って問い直した。
サラの眉間には明らかに不機嫌とわかる皺が寄せられている。
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