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「いや、いや、毎度すまないのう…。」
いつものことながらサラには優しい対応は期待できない。怒られるとわかっていながらとりあえずの謝罪を述べる。
「すまないと思うなら呼び出さないでほしいですわ!」
サラは王の予想通りに王の頭の上からすかさず怒鳴り声を浴びせる。
その声はどこかにいた楽師たちにも届いたのであろう、音楽が止み静けさが訪れた。
王は背もたれいっぱいに背を押しつけながら身をすくませ、すこし椅子からずり落ちたような体制で頭を低くする。
どちらが上の立場かわからない。王に仕える魔道士であるとは到底思えない態度である。
「ま…まあ、聞いてくれ。それが大変なことになっての。」
右手をサラの目の前にかざし、それ以上喋らないようにと制止しながら続ける。
サラは眉間の皺を一層深くした。
今までにも急に呼び出されたことは何度かあるが、毎回大抵面倒な事態のことが多い。
楽師たちは気を取り直したのか再び音楽が聞こえ始めた。
王はそれに勇気づけられたかのように一つ咳払いすると、腰をかけなおして、
「カムソウルから北へ馬車で半日程のところへ、フロウという小さな町があるのは知っておるな?」
と問う。
サラは真剣な表情になり一つうなずいた。
確か、山の中腹辺りに存在する、山羊のミルクを使ったチーズが特産の町だ。サラのお気に入りのワインにもとてもよく合う。
「先日そこで崖崩れがあっての、崖崩れだけなら珍しくないんじゃが、その崖崩れの後から大きな穴が現れたんじゃ。」
話を聞く気になったサラは机を降りて、ダークブルーのベルベット張りのソファへ掛け直した。肌触り、装飾、座り心地どれをとっても申し分ない。
「かなり深い穴のようなのじゃが、どうも入口に結界があるらしく、町の者では様子を見に入れず、王宮から数人の魔道士を派遣して調査に当たらせていたのじゃが…。」
結界関係に強い魔道士。何人かの顔がチラリと浮かんだが名前が出てこない。
サラはよほど自分に関わりがないとなかなか名前を覚えない。
ただ言い淀んだことで、悪い事態に事が運んだことは想像できた。
「調査員達は、結界の中には入ったものの、1日経っても戻らず…結界も再び張り直されてしまったらしい。」
再び直された…つまり、
「…中に何者かがいるのは間違いないということですわね…。」
サラは白い大理石のローテーブルを人さし指の爪先でトントンと叩いて、考えを巡らせている。
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