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いろんなことが絡み合った中、 お母さんと速水さんとの不思議な関係はゆっくりと続いていた。 でも不自然なお付き合いに悩んだお母さんはお別れを決めて 速水さんと会うのは最後にしようとした日の夜。 お母さんは長年のストーカーに襲われて 後遺症を残した。 お母さんが独身の頃から、好意を寄せていた犯人は 独身に戻ったお母さんのことを何かで知って、 事件の少し前から、お母さんに近づこうと画策していたらしい。 でも、その中で、自分の気持ちに気づかずにまた新しい恋を始めた お母さんを自分のモノにしたいと犯行に及んだと… 自分のモノにならないなら、もう誰のモノにもならないように…と。 あの頃は、本当に思い出したくないくらい、 家の中が寒々しい雰囲気だった。 犯人が逮捕されても、 なんとなく家の周りには警察の雰囲気があったし 守ってもらってる実感はあったけど、 近所の人の遠慮ない視線も すごく切なかったのを覚えている。 離婚して出戻って、今度は暴漢に襲われたんですって… そんな声が背後からいつも聞こえてきた。 別れを決め、あの日を迎え、 事件に巻き込まれ、 速水さんと会わないことを強く心に決めたお母さんは 『大丈夫。お母さん頑張るから…』って 何も知らない私たちに作り笑いの笑顔を向けてくれた。 でもその笑顔が泣いているみたいに見えて、 速水さんの存在を知らなかった私は、 お母さんがこんな表情をするのは、 きっと怖かったとか、痛かったとか、 そういう感情からだと思っていたけど、 大好きだった速水さんと会わないことに決めた決意が そんな表情にしていたと知ったのは ずいぶん経ってからのことだった。
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