僕と兄貴と彼の話。

2/26

429人が本棚に入れています
本棚に追加
/227ページ
あと1週間後には食堂きよがオープンする。 俺は最終チェックをしながらもばあちゃんが使い続けた鍋をキレイに磨いた。 ここ2年は俺が使い込んだ。 まだまだ使える。 そんなとき、雅臣から連絡が来た。 ――ばあちゃんが亡くなった。 ついこの間店の内装の写真を見せて喜んでいたのに。 「もう思い残すことは何もないよ」 そう言ってくれていた。 「……ばあちゃん……」 「和希さん、祖母の味を残してくれてありがとうございます。 これからもたくさんの人に喜ばれると思うと僕はすごく嬉しいです。」 葬儀の後、優希と落ち込んでいたら雅臣がそう声をかけてくれた。 「雅臣、ありがとう…」 雅臣に笑顔でなんとかお礼を言った。 雅臣の方が辛いのに俺がこんなんじゃばあちゃんが悲しむ。 「いやぁー!良い葬儀だった!な、雅臣!」 「兄さん…」 雅臣の一番上のお兄さんが北海道から飛んで来た。 大きな牧場を経営しているとかでガッツリした体格のびげもじゃのお兄さん。 「ヨッシー!相変わらずだな!」 「明正もな!がははは!」 意外にも葬儀ではみんなしんみりしていたけど、ばあちゃんの思い出話に花が咲く。 こうやって人は乗り越えていくんだろう。 両親の葬儀は本当に覚えていない。 あまりにも現実が受け入れられなかったからか。 優希も賑やかに話を少し笑顔で聞いていた。 善人もアッキーさんに勉強を教わった時にばあちゃんには会っていたらしく葬儀にも来た。 ばあちゃん、俺きよの味を守っていくよ。 沢山の人に食べてもらって愛される食堂にするから! スナックの常連さん達も参加してくれた。 みんな、きよちゃーんと泣いていたけど、今は楽しく話している。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

429人が本棚に入れています
本棚に追加