六章 片隅に咲く花

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・ 「誰の目にも晒されぬひっそりと咲く小さな花…ってところか」 花壇の花をプランターに移し替えている女生徒の後ろ姿を見つめ、グレイは艶のある笑みを浮かべた。 遠く離れた村にある教会からこの学院に修道士の修行をする為にやってきた娘。 クリスティーヌ・ド・パウロは背中越しの視線に気づきながら作業を続けていた… やだっ…まだ見てるっ クリスは横目でグレイの姿を盗み見て頬を染めていた。 女生徒達の憧れの的、学院の華でもあるグレイの存在が土をいじるクリスの手を微かに震わせる。 いつもは自分が遠巻きに見ていた筈のその美しい人が、今は自分をジッと見つめていることにクリスは緊張しながらぎこちない動きを繰り返していた… 土で汚れた姿と修道着の裾を汚さぬようにみっともない位置まで捲り上げた恰好を見られていると思うと、とても振り返る勇気がわかない。 早く何処かに行って欲しい。そんな思いを込めてクリスはまた自分の後ろを探るように視線だけを向けた。
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