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俺に用が有るはずはねぇ。
俺は浮浪者だし、今は真夜中だし。
「ねえ、おじいさんってば」
俺にこんな女の知り合いはいねえ、
それなのにこの女、
乗っている、車椅子から身を乗り出して叫んでやがる。
「おじいさんっ」
「な、なんだ」
咄嗟に発した言葉。声を出したのは久々だった。
女は重そうに車椅子を漕いで、俺に近づく。
「なんだ、お前」
俺は訝しく思った。
それは、成人しているとは言え、まだ若い女が、話し掛けてきたからだ、俺とは、住む処が違い過ぎる人間だったから。
「ねえ、おじいさんは、スニーカーの神様、ですか?」
何なんだこの女。
スニーカーの神様って何だ。俺をからかってやがるのか。それともイカレてやがるのか。
俺はその女を睨みつけて黙っていた。
「お願い神様。私に、その靴をください」
女が指差したその靴とは、俺が今履いている靴の事だった。昨日ゴミ箱の底から拾った靴、全く新品で棄ててありやがったから儲け物と思っていたんだが。
だけど、やっぱりイカレてやがる。何で俺なんかが今履いている靴を欲しがるんだ。
くれてやる道理はねぇばかりか、関わらねぇ方が良いと胸が騒ぐ、俺は無視して後ろを向いた。
「ま、待って下さい。おじいさん、スニーカーの神様じゃないのですか」
俺はその場で寝転んだ。
「おじいさんっ」
「うるせぇ、俺が神様の訳ねぇだろ。疾っとと失せろ」
「そ、そんな」
女は泣き出しそうな顔になって、尚も俺に詰め寄る。車椅子がガタガタうるさい。
「お、お願い、おじいさん、ちょっとでいいから、その靴を見せて下さい」
血相を変えて女は言った。
「あん。この今履いている靴の事か」
「そう。お願いします、少しでいいから、お願い」
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