スニーカーの神様。物語

3/10
前へ
/10ページ
次へ
俺に用が有るはずはねぇ。 俺は浮浪者だし、今は真夜中だし。 「ねえ、おじいさんってば」 俺にこんな女の知り合いはいねえ、 それなのにこの女、 乗っている、車椅子から身を乗り出して叫んでやがる。 「おじいさんっ」 「な、なんだ」 咄嗟に発した言葉。声を出したのは久々だった。 女は重そうに車椅子を漕いで、俺に近づく。 「なんだ、お前」 俺は訝しく思った。 それは、成人しているとは言え、まだ若い女が、話し掛けてきたからだ、俺とは、住む処が違い過ぎる人間だったから。 「ねえ、おじいさんは、スニーカーの神様、ですか?」 何なんだこの女。 スニーカーの神様って何だ。俺をからかってやがるのか。それともイカレてやがるのか。 俺はその女を睨みつけて黙っていた。 「お願い神様。私に、その靴をください」 女が指差したその靴とは、俺が今履いている靴の事だった。昨日ゴミ箱の底から拾った靴、全く新品で棄ててありやがったから儲け物と思っていたんだが。 だけど、やっぱりイカレてやがる。何で俺なんかが今履いている靴を欲しがるんだ。 くれてやる道理はねぇばかりか、関わらねぇ方が良いと胸が騒ぐ、俺は無視して後ろを向いた。 「ま、待って下さい。おじいさん、スニーカーの神様じゃないのですか」 俺はその場で寝転んだ。 「おじいさんっ」 「うるせぇ、俺が神様の訳ねぇだろ。疾っとと失せろ」 「そ、そんな」 女は泣き出しそうな顔になって、尚も俺に詰め寄る。車椅子がガタガタうるさい。 「お、お願い、おじいさん、ちょっとでいいから、その靴を見せて下さい」 血相を変えて女は言った。 「あん。この今履いている靴の事か」 「そう。お願いします、少しでいいから、お願い」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加