スニーカーの神様。物語

5/10
前へ
/10ページ
次へ
「私は落ち込んで、絶望の底で沈んでいました、そんな時、噂を聞いたの スニーカーの神様の噂を。 また走る事が出来るようになるのなら、私は藁にだってなんだって、手を伸ばす」 俺はその女の想いに、同情しちまった。少しなら手を貸しても良いと思った。 「おい、支えてやるから、伝い歩きしてみろよ」 女は一発返事で、両手を俺に差し出した。 俺はその両手を持って、上に持ち上げた。下半身不随ってのは大変だ。本当に支えてやらなきゃ立つことなど出来はしないだろう。 それにしても、この女、こんな汚ねぇ俺のなりにも全く動じず、嫌な顔一つしねぇ。 信じてぇのか。 すがりてぇのか。 それ程までに、走りてぇのか。 「きゃあっ」 小さな悲鳴と共に、女は地面に崩れた。 一歩どころか、立つことも出来なかった。 「…やっぱり、魔法のスニーカーなんて無いんだ」 地面に突っ伏したまま女は言った。 「もう嫌だ、こんなの、こんな人生」 女の落胆振りを俺は馬鹿にするつもりは無かったが、少し腹が立った。 「おい、確かにお前は走れなくなっちまったが、人生それだけじゃねぇだろ。 他にも不幸な人間は沢山居るだろ。 どん底でも、這いつくばって必死で生きている奴も居る。お前なんてまだましな方だ。車椅子だってあるんだしよ、行きたい所あったら何処だって行けんだろ」 頭を垂れたままの女を、再び抱えて車椅子に乗せた。 「死よりも、辛ぇ事なんてねぇはずだ」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加