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「私は落ち込んで、絶望の底で沈んでいました、そんな時、噂を聞いたの
スニーカーの神様の噂を。
また走る事が出来るようになるのなら、私は藁にだってなんだって、手を伸ばす」
俺はその女の想いに、同情しちまった。少しなら手を貸しても良いと思った。
「おい、支えてやるから、伝い歩きしてみろよ」
女は一発返事で、両手を俺に差し出した。
俺はその両手を持って、上に持ち上げた。下半身不随ってのは大変だ。本当に支えてやらなきゃ立つことなど出来はしないだろう。
それにしても、この女、こんな汚ねぇ俺のなりにも全く動じず、嫌な顔一つしねぇ。
信じてぇのか。
すがりてぇのか。
それ程までに、走りてぇのか。
「きゃあっ」
小さな悲鳴と共に、女は地面に崩れた。
一歩どころか、立つことも出来なかった。
「…やっぱり、魔法のスニーカーなんて無いんだ」
地面に突っ伏したまま女は言った。
「もう嫌だ、こんなの、こんな人生」
女の落胆振りを俺は馬鹿にするつもりは無かったが、少し腹が立った。
「おい、確かにお前は走れなくなっちまったが、人生それだけじゃねぇだろ。
他にも不幸な人間は沢山居るだろ。
どん底でも、這いつくばって必死で生きている奴も居る。お前なんてまだましな方だ。車椅子だってあるんだしよ、行きたい所あったら何処だって行けんだろ」
頭を垂れたままの女を、再び抱えて車椅子に乗せた。
「死よりも、辛ぇ事なんてねぇはずだ」
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