第4章

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保憲が手の甲で目を覆う。 一瞬真っ白になった視界が、やがてゆっくりと戻ってくる。 「―――な……」 保憲が茫然と空を見上げる。 渦巻く黒雲の真ん中にぽかりとあいた穴……そこから青空が見えている。 おおおおおおお───がああああああ───。 もがき苦しむ声に見上げれば、額から黒く血のようなものを散らした雷公が喚いている。 ───なんと―――なんと……わしを砕く、とは……お前は。 はっと視線を戻せば、もはや瓦礫と化した清涼殿に。 ひとり、晴明が立っていた。 烏帽子が飛んで流された髪。表情の消えた顔。 その瞳は猫のように縦に裂けた……異形の瞳。下弦の月のように細まったそれが金に煌く。 「……青月」 膝立ちで床に手をついた博雅が晴明を仰いだ。 晴明の腕が雷公に向かってすっと伸ばされる。広げた掌にぱちぱちと爆ぜながら球形の光が出現した。 ばり! 球電が放たれた。 ぎゃおん! 腹を貫かれた雷公の眷族が燃え上がる。 二度、三度と。鬼を落とした光が雷公に向かう。 長い爪の生えた指を鉤のように曲げた手で雷公が光球を撥ね返した。 ばっ、と音を立てて返った光が、清涼殿の屋根を貫いた。 なおも放つ光はことごとく撥ね返され、庭を焼いて樹木を倒していく。ばり、と貫かれた天井ががらがらと砕け落ちた。 「晴明、止め―――ッ!」 肩を掴もうとした保憲の掌が、じゅ、と音を立てる。晴明の身体を薄く覆う光が熱く脈打った。 空を見つめる獣の瞳の、その空虚さに保憲の肌が粟立つ。 「―――晴明!」 その腕が再び上がろうとした時。 ―――笛の音(ね)が響いた。 爆ぜる炎。吹きすさぶ風の中に。高く低く笛の音が流れる。 立ち上がった博雅が笛を吹いていた。 君よ、安らぎたまえと。 慰撫の音色が無残な清涼殿を抜けていく。 怒りを静めたまえ……どうか憎しみを捨てたまえ。小さな者共にどうか憐れみをかけたまえと。 清冽な調べに篭められる祈り。 内裏を覆う呪詛の圧迫感が、僅かに薄らいだ。 それに呼応するかのように晴明の瞼がすっと閉じられて、そのままかくりと崩れ落ちる。保憲がそれを抱きとめた。
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