第1章

10/22
前へ
/83ページ
次へ
……無傷(むしょう)か。 都のいたる所に居る雑妖……鬼と呼ぶにも足りない妖(あやか)しだ。 「―――天魔外道皆仏性」 晴明が小さく呪を唱えると、ち!と悲鳴じみた声を上げて影が消えた。 『きちんと修行もしていない身で、呪を使うでない!』 保憲の父、自分の師である賀茂忠行(かものただゆき)の声が脳裏に甦る。 「……使えるんだから仕方ないでしょう」 幼い自分を引き取って、我が子同然に育ててくれた恩人───彼の前では言えなかった言葉を口に出してみる。 そう……普通なら修行をしなくては分からない事、使えない術が晴明には難なく出来る事が多かった。 ほんの小さな頃から異界を見る事が出来ていた、自分。 だから、と晴明は思う。 忠行殿は自分を引き取ったのだ。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加