第1章

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ふうわりと。妖しの気配が木から離れて漂ってくる。 煩わしい、と晴明が口の中で再び呪を唱えた。 ばり!と異様な音がして。みしりと撓んだ橘の幹が裂けた。 晴明がはっと目を見開く。 ぱし、ばしりと。続けざまに折れ飛んだ枝が四散する。びし、と大きな音を立てて井戸の縁にひびが走った。 「―――っ」 咄嗟に顔を庇って上げた腕に足元の玉砂利が礫(つぶて)のように飛ぶ。 ……ぱらり。 井戸を覆う屋根の上に飛んだ小石が落ちて……そのあとは静かになった。 「……」 収まったと見て晴明が腕を下ろす。 見れば井戸の脇にあった橘は、無残にも中ほどからばっさりと折れてしまっている。 ……こんなことをするつもりではなかったのに。
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