第1章

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―――少しずつ『力』が強くなっている。 二の腕にぞくりと鳥肌が立った。 きゅ、と唇を噛んだとき。 どこからともなく笛の音が聞こえてきた。 こんな時間に……? 眉を寄せた晴明が頭(こうべ)を巡らす。 高く低く。流れてくる旋律は澄んでいて。 透徹した響きが夜の空気を揺らしていく。 好奇心に突き動かされて晴明は音のする方に足を向けた。 奏しているのは、鬼か蛇か。澄みきった音色は邪(よこしま)なものとはとうてい思えないが。 陰陽寮の一区画を出て、内裏の入り口建礼門の前を通り。笛の音に引かれるまま真言院の建物を回る。 このまま行くと、例の場所だが。 晴明が怪しむ。 ───宴(えん)の松原。月を見に歩いていた女房が鬼に喰われたと云う松林。 やはり妖しかと思いながら林沿いに歩けば、小さな池のほとりに出た。 銀に月光を弾く玉砂利の上に、一人の男が立っていた。
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