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ひょうと笛が鳴ると風がさざめいた。高く音が抜ければ月の光が揺れた。
その者の周りだけ、空気の色が変って行く。澱んでいた内裏の空気が、澄んで煌いて浄化されていく。
魂が───天空に奪われる。
とてもひとの奏でる音とは思えない―――が、確かにそれは人間であった。
どれくらい聞いていたものか。
何時の間にか止んでいた音(ね)に、晴明がはっと我に返る。男がこちらを透かし見ていた。
「そこに居るのは誰か?」
澄んだ声が問う。
あの笛の音にふさわしい声だと、半分まだ夢の中に居る心地で晴明はぼんやりと思った。
「居るのであろう?」
松の木の影に佇んでいた晴明が、声に引き寄せられるように無意識に歩み出た。
月の光がその姿を照らし出す。男がはっと息を飲み───目元を僅かに染めた。
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