第1章

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烏帽子も被らず一括りにした濡れ髪は背中に流したまま。 白い単を纏った身体も濡れて、肌には露が光っている。 男の表情に、下着一枚という自分の格好に思い至った晴明が、さすがに狼狽した。木の陰に身を引こうと後ずさる。 「待て───俺の笛を聞きに来たのか?」 その声に含まれる何かが晴明の足を止めさせた。 「笛が、好きか?」 振り向けば、男はどこか必死の様子。 「……そなたは妖しか?ここに棲むという鬼なのか?」 無言のまま見返すと、野の鳥を招くような仕草で男が尚も呼ぶ。 「何もせぬ……から、こちらに来ないか?……怖くないから」 晴明はふと可笑しくなった。 自分が妖しや鬼であったら、恐れるのは向こうではないのか? ───面白い男だ。 晴明の唇に薄く笑みが刷かれた。
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