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烏帽子も被らず一括りにした濡れ髪は背中に流したまま。
白い単を纏った身体も濡れて、肌には露が光っている。
男の表情に、下着一枚という自分の格好に思い至った晴明が、さすがに狼狽した。木の陰に身を引こうと後ずさる。
「待て───俺の笛を聞きに来たのか?」
その声に含まれる何かが晴明の足を止めさせた。
「笛が、好きか?」
振り向けば、男はどこか必死の様子。
「……そなたは妖しか?ここに棲むという鬼なのか?」
無言のまま見返すと、野の鳥を招くような仕草で男が尚も呼ぶ。
「何もせぬ……から、こちらに来ないか?……怖くないから」
晴明はふと可笑しくなった。
自分が妖しや鬼であったら、恐れるのは向こうではないのか?
───面白い男だ。
晴明の唇に薄く笑みが刷かれた。
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