第1章

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曲が終わって。笛を唇から離した男が傍らの晴明を見やる。 色素の薄い瞳の色は、琥珀石を思わせた。 「……ありがとう。最後に聞いてもらえて、良かった」 聞き返す間もなく。 視線が手に持つ笛に落ちたかと思うと、腕が振り上げられた。はっと晴明が息を飲む。 ───ばしゃん。 笛を池に投げ捨てた男が、肩で大きく息をつく。突然の事に唖然とした晴明が声もなく池の波紋を見つめた。 薄い唇をきっと噛んだ男が背中を向けて走り出す。 月光の中、遠くなるその姿を晴明はただ見送っていた。 次の日の朝。賀茂忠行の屋敷。 晴明の観測と保憲の占盤の結果を前に、円座に座った忠行が考えを廻らせていた。参内の為に薄緋(うすあけ)の衣冠を纏っている。
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