第1章

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歳(さい)星が紫微宮を侵す───帝に異変のある兆し。 その上で保憲が式盤で占った結果は、内裏で大事を為さぬべし。 「雷公の力が強まっているな」 腕を組んだ忠行が呟く。 雷公―――菅原道真。 右大臣を務め従二位まで登りつめた大政治家。 時の左大臣藤原時平の讒言から失脚して、失意のまま遠く配流の地で死んだ歌人。 自分を陥れた者たちへの恨みは深く、怨霊となって時平公の縁者を次々に祟り殺してきた。そして死後四十年近く経った今もなお、雷公は都に祟り続けている。 「この日照り続きもやつのせいでしょうね……しつこい事だ」 胡座を組んで。膝についた肘で頬を支えた保憲が言う。 「歳星が紫微宮を抜けるまで、雷公を刺激するような行事はせぬがいいかと」 「雨乞いの儀はいま少し延期するよう奏上しよう」 晴明の言葉に忠行が肯いた。
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