第3章

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「俺はな、勝負事で負けた事がないんだよ」 「……知ってますが」 いきなり何を言い出すんだという顔で、晴明が保憲を見上げる。それは保憲が常々自慢している事であった。 「何故だか分かるか?」 指貫の腰紐をぐいと締めて保憲。 「勝てる喧嘩しか買わないからだ」 「……はぁ」 一応晴明が相槌を打つ。 「柄じゃないんだよ───こういうのは」 くそ、とひとつぼやいて、印を結ぶ。保憲の表情が消えた。 「東方阿迦陀、西方須多光」 ……何の役にも立たない。 「南方刹帝魯、北方蘇陀摩擦」 低く、しかし力の篭った声が呪を唱える。 ゆらりと陽炎のようなものが立ち上った保憲の背中を見つめて、晴明は思った。
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