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自分は何の役にも立たない。『力』があったところで、使えなければ何にもならない。
押し寄せてくる高津波に抗する術があろうか。裂けていく大地から逃れる術があろうか。
彼我の差はあまりにも大きかった。
『力』から……『自分』から。逃げていた結果がこの始末だと。
どろどろと空に渦巻く瘴気を見上げて晴明が唇を噛んだ。
どん、という地響きと共に稲妻が走る。
「―――ッ!」
保憲の前方を半球に包んだ光の壁が雷撃を跳ね返す。
───が、それと同時に保憲は後方に大きく飛ばされた。広縁の高欄に背中からぶつかって倒れこむ。
どこで切ったものか、保憲のこめかみを生暖かいものが伝う。
身体を起こそうとして立てた左腕に激痛が走り、肩口から倒れこんだ。
「───くそ」
正面きって闘える相手ではない事ぐらい、百も承知だったが。
稲妻に焼かれて爛れた拳を握り締める。
「逃げろッ!」
晴明に向かって叫んだ時、黒雲の中で閃く光がその目標を、博雅に変えた。
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