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空を見つめる獣の瞳の、その空虚さに保憲の肌が粟立つ。
「―――晴明!」
その腕が再び上がろうとした時。
―――笛の音(ね)が響いた。
爆ぜる炎。吹きすさぶ風の中に。高く低く笛の音が流れる。
立ち上がった博雅が笛を吹いていた。
君よ、安らぎたまえと。
慰撫の音色が無残な清涼殿を抜けていく。
怒りを静めたまえ……どうか憎しみを捨てたまえ。小さな者共にどうか憐れみをかけたまえと。
清冽な調べに篭められる祈り。
内裏を覆う呪詛の圧迫感が、僅かに薄らいだ。
それに呼応するかのように晴明の瞼がすっと閉じられて、そのままかくりと崩れ落ちる。保憲がそれを抱きとめた。
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