第4章

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おお、おおおお……笛、ごときで……ワシを落とせると、思うてか。 雷公の周囲に再び稲妻が閃きはじめる。 瓦礫の中では、博雅が無心で笛を吹き続けている。 だめだ。止められない。 頭上で渦巻く黒雲を見上げた保憲の顔が、絶望に歪んだ。 ―――満山の紅葉、小機(しょうき)を破る―――。 卒然として。歌を詠む声が響いた。 ―――況んや浮雲の足下より飛ぶに遇ふをや。 ―――寒樹は知らず、何れの処にか去る。 ―――雨中に錦を衣て、故郷に帰る。 何時の間にいたものか。半壊してぶすぶすと煙を上げる階(きざはし)に立つ人影。空を見上げながら歌を詠む男。 「……親父殿」 賀茂忠行だった。 「道真公よ」 どろどろと龍のように閃めく稲妻を従えた暗雲。それが渦巻く空に呼びかける。 「あの吉野行幸の折、私はまだほんの小僧で随身の身でした。そこで私は貴方が詠まれた歌をお聞き申した」
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