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……夜の陰陽寮になぞ、夜廻りですら来るものか。
陰陽寮のすぐ裏手に、儀式の前に身を清める為の小さな井戸がある。
晴明は羽織っていた単を落とすと冷たい水を被った。ぬめる雫を洗い流しても残る身体の倦怠感に、吐息をつく。
濡れた髪を後ろでひとつに括った。
見上げれば、天空には満月に向かおうとしている上弦の月。
肌の上に残る雫が月光を弾いて煌く。腕を上げると光の玉がすうと滑って肘から落ちた。
かさり、と。
井戸の影で何かの蠢く気配がする。
小さな赤い光が二つ、並んで瞬く。
ちい、と小さく虫のような声を上げたそれが、さっと晴明の足元に走り寄った。黒く蹲った鼠ほどの影が、踝に光る水滴にちらりと舌を伸ばす。
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