キスの記憶

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「えーと、お互い忙しいので……」 「僕の部屋に来ることがほとんどですね。彼女の通勤経路の途中駅なので。僕も仕事で遅くなるから、その方が都合がいいんですよ。合鍵も渡していますし」 うまい返答を探す私の台詞を、皆川さんが繋いだ。 「へえ、合鍵を?」 「はい。時間を合わせなくていいですし」 「ああ、そうか。僕はちょっと抵抗あるんですよね」 皆川さんと東条主任の会話は続いていたけれど、私は会話そっちのけで顔から湯気を立てていた。 合鍵だなんて何だかいやらしい。 東条主任にどう思われるだろう? 架空の話なのに顔を真っ赤にしていると、ふと堀内嬢の刺さるような視線を感じた。 どうやら彼女はこの食事会で私の恋人が自分に目移りするストーリーを想定していたらしい。 なのに、なかなか皆川さんがなびく素振りを見せないのでご機嫌斜めなのだ。
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