キスの記憶

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一時間後、私は皆川宅のソファーで冷えた両手をコーヒーのマグで温めていた。 またここに来ることになるとは。 湯気を吹きながら、前回よりも少し生活臭のするリビングを見回した。 テーブルにはやりかけの仕事らしきファイルが積んである。 年末は彼も忙しいのだろうか。 遅れてやってきた時、「ごめんね」と耳に寄せた声が少し息切れしていたことを思い出した。 彼はまだあれこれと用事を片付けていて、なかなかリビングに落ち着かない。 待っている間、手持ち無沙汰に食事会での会話を頭の中で再生した。 「人事ってこと、言っちゃって良かったんですか?」 「別に構いませんよ。彼らは広めないでしょうし」 皆川さんは積んであったファイルを別の部屋に運び終えると、ようやく自分のマグを持ってこちらにやってきた。 「一応、楔は打ち込んでみましたが、必要なかったかもしれないですね。あの二人はもうすぐ駄目になるんじゃないかな」 確かに東条主任は皆川さんに色目を使う彼女に苦笑いするだけだった。
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