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「彼女の本性に東条主任はもう気づいているようですしね」
「男好きってことですか?」
「それもありますが、他にもね。それよりも」
前回はテーブルを挟んだ向かいにある肘掛け椅子に座っていた皆川さんがまるで本物のカップルみたいに隣に腰かけたので、私の身体は硬直した。
「演技が下手すぎです」
「すみません……」
今日再び私がここに来ることになったのも、彼の部屋で会っているという設定の信憑性を高めるためだ。
帰りは全員同じ路線だった。
彼の最寄り駅に着いた時、彼はボサッと突っ立っている私の腕を取り「では」とあの二人に笑顔で別れを告げると、強引に電車から引きずりおろしたのだ。
「こうして僕が近づくだけでガチガチになるようでは疑われて当たり前でしょう」
「皆川さんが苦手ってことじゃないんです!その、もう長年彼氏がいないので、感覚がよく分からないっていうか」
「その年でその反応は初々しいというより不気味です。男は敬遠するでしょうね」
「ぶ、不気味って……」
あまりに辛辣な言葉にいたく傷つき、私は少し涙目になった。
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