キスの記憶

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彼に背中を向けたまま、目にたまった涙を元に戻そう目をしばたたく。 背中でかすかなため息が聞こえて本気で泣きそうになった時、彼が口を開いた。 「卑屈なのはあなたの愛すべき特徴ですが、忘れっぽいのは欠点ですね」 「え……っ」 いきなり手からマグを奪われ、腰を強引に引き寄せられた。 「ちょっと待っ……」 そむけた顔を掴まれ彼の方に向かされた瞬間、まともに声を上げる間もなく唇を塞がれた。 ソファーに押し倒され、彼の重みをかけて唇を深く割られる。 「あ……、ふ……っ」 舌を強く吸われて喘いだ唇の隙間から変な声が漏れた。 身体の芯から全身へ、快感が震えとなって広がっていく。 この感覚、覚えてる……。 服の隙間から彼の手が滑り込んでくると、妄想だと思っていたキスの記憶が私の奥底を突き上げた。 この手に溶かされ、本能のままに喘いだこと。 なのにきっと最初で最後のそれが好きな人の手ではないことが切なくなり、涙が流れたこと……。
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