キスの記憶

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今は、涙は出てこない。 代わりに快感と同じ強さの痛みが私の全身を回り、心と身体を高ぶらせる。 その痛みが何なのかはよくわからなかった。 前回と違い、彼の手はなかなか先に進もうとしない。 もどかしくて彼の首に両腕を回そうとした途端、彼が急にキスをやめて顔を離したので、行き場を失った両腕がほどけて落ちてきた。 「……思い出しましたか?」 少し乱れた二人の呼吸の音だけが静かな部屋に響いた。 唇はひりつき、彼の手が引き抜かれた服の下では肌が疼いている。 黙って彼を見上げ、頷いた。 すると彼が身体を起こそうとしたので、私は咄嗟に彼の袖を掴んでしまった。 「……」 彼は私に跨がったまま、じっと私を見下ろした。 私の手は彼の袖を握り締めたままだ。
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