キスの記憶

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ところが当日の夕方になって皆川さんが遅れるとメールしてきたので、私は針の莚の一時間を過ごす羽目になった。 「遅いですね、彼氏さん」 何度目なのか、堀内嬢がさも心配したように時計を見た。 どうせ来ないと思っているのだろう。 「忙しいみたいで……。今日はそのための食事会なのにすみません」 「それにしても江藤さんに彼がいたなんて知らなかったな。そんな素振り全然なかったから」 「あは、あはは……」 彼氏がいたことがほとんどない人生なんだから、素振りがないのも当然だ。 東条主任の隣では堀内さんが意地の悪い表情を浮かべている。 「どんな人なの?」 「えーと……クールな感じ」 我ながら男性に関する語彙が少なすぎるのは、経験が乏しいからなのか。 すると東条主任が身を乗り出して尋ねてきた。 「そういう男がタイプなんだ?」 「いや、決してそういう訳では!」 思わず力が入る。 私のタイプはあなたですから。
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