キスの記憶

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その時、かいがいしく東条主任のお皿にサラダを取り分けようとした堀内さんを、主任が要らないというように手で制した。 「自分でやるよ」 表情は優しいけれど、東条主任が仕事で何かを断る時の声だ。 今日はこんな場面を何度か見ている気がする。 質問はさらに続く。 「彼はどんな仕事してるの?」 「えーと、秘密です」 「また?年齢も秘密ですよね」 「年齢は35です」 「わぁ、かなり年上なんだ」 車内で確認した新事実を鼻息荒く堀内さんに言い返すも、オジサン扱いされてムッとする。 33の主任と大して変わらないのに。 その後も一向に“クールなオジサン”から脱却できず、もう限界だと匙を投げたくなった時、目の前の二人が何かに気づいたように「あ」と顔を上げた。 同時に、肩に優しく手が乗せられた。 「遅れてしまって申し訳ありません」 見上げると、皆川さんが見たこともないような爽やかな笑みを浮かべて立っていた。 それから彼は椅子に腰掛けながら私の耳に顔を寄せて囁いた。 「ごめんね」 耳を押さえて飛び上がる。 でも、私の不審な挙動に突っ込みは入らなかった。 二人の目は皆川さんに釘付けだったからだ。
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