運命の恋はひとつだけ

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懇親会の受付があるホールにも、やはり彼の姿は見当たらない。 がっかりしかけた時、私の視線は別の人物を捉えて動かなくなった。 会場へと流れる列の少し先に、年末にトイレの前ですれ違ったあの横顔が見えた。 仁科香子さんだ。 考えてみればセミナー講師を務めたぐらいだから、招かれていて当然だろう。 でも、彼女の存在を予測していなかった私はしばし動揺した。 「今日、終わってからちょっと寄り道できる?」 「え?あ、はい」 主任に話しかけられ、香子さんに奪われていた注意を隣に戻した。 寄り道って、飲み直すお誘いだろうか? はずみで返事してしまったけれど、主任はそれ以上言葉を足さなかったので、私も何となく聞き返せなかった。
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